AI13期 2回目
『どうなってるの、この星は』
脚本:平野杏奈
さくら りこ役:垣花蛍月、新堂友菜、神田あいり
もりた ゆい役:磯谷萌々子、河谷紗那、浦田憩
むらおか みや役:内藤あい紗、山下愛織、小森香乃
みずかみ さつき役:佐藤七海、里中詠栄、城戸河れいか
☆☆☆
4人は公園で開催されるフリーマーケットに参加することにした。
そして、フリマ開催の当日、おのおのが売るものを持ってきて集まった。
みやが持って来たものは、父親の腕時計。
みやがこれを選んだ理由は、父親がまた浮気をしていることを知ったからだった。
父親は前回の浮気のときは母親に謝り倒していたが、今回は開き直っているという。
さつきが持って来たものは、彼氏(りょう)からもらったパーカー。
さつきがこれを選んだ理由は、彼氏が二股をしていることを知ったからだった。
彼氏は二股していることをバイト先で得意げに話していたという。
ゆいが持って来たものは、母親の双眼鏡。
ゆいがこれを選んだ理由は、母親が趣味で行っている野鳥の会の人とデートしているのを知ったからだった。
そのせいで、先月くらいから、ゆいの父親は母親と離婚すると言っているという。
りこが持って来たものは、大好きな姉からもらったゲームのソフト。
りこはそれを持って来たものの、売るかどうかを迷っていた。
4人が話をしていると、遠くのほうにいるりこの姉を発見する。
りこの姉は、同棲している彼氏とは違う男と一緒にいた。
りこは、姉がその男とキスをするところを見てしまう。
全員アウト。
価値観が合わない。
どうなってるの、この星は。
それを見て、りこはゲームソフトを売ることを決意する。
大好きな姉との思い出と決別することを決意する。
☆☆☆
4人に共通している感情は、大切な人との決別(訣別)だ。
決別とは、いとまごいをして別れること。
いとまごいとは、別れを告げること。別れの言葉。
この物語で、みや、さつき、ゆい、りこの4人の少女は、それぞれ、父親、彼氏、母親、姉という自分にとって大切な人との決別を決意する。
彼女たちは、いとまごい、つまり別れを相手に直接告げる代わりに、大切な人との関係を象徴するものをフリマで売ることで、決別を表現している。
決別とは、人が生まれて死ぬまでに幾度となく訪れる試練だと言える。
親との決別。
恋人との決別。
友達との決別。
思い出との決別。
過去との決別。
同士との決別。
故郷との決別。
仕事との決別。
信仰との決別。
事務所との決別。
推しとの決別。
etc...
このように単に決別と言っても、その在り方は様々である。
だが、これらに一貫しているのは、強い意志があることだ。
たとえば、恋人と決別するということは、今日はばいばいしてまた来週会いましょうという程度ではない。
恋人のことを既読スルーしてみたり、ブロックしてみたり、距離を置いてみる程度でもない。
恋人との恋愛関係を終わらせる、依存関係を断ち切る、もう2度と会わない、という強い意志があることだ。
その強い意志をもって、恋人との関係を完全に終わらせる、という決意があることだ。
たとえば、過去と決別するということは、いじめられた辛くて苦しい過去を、単にいったん現実逃避をして忘れることではない。
いじめられた過去を捨てる、そういう過去は無かったことにする、という消極的な意思でもない。
いじめた加害者たちを呪うことをやめること、そのいじめを見てみぬふりをしていた教師の不幸を祈ることをやめること、そのいじめによる不安や恐怖などのトラウマによって他人と関わることを避け続けている自分をやめること、そういう強い意志があることだ。
その強い意志によって、今、自分にできることを考えて、未来を切り開いていこうとする決意があることだ。
たとえば、推しと決別するということは、単に推し変をしたということではない。
推しがアイドル活動を辞めてしまった、推しが結婚をしてしまった、推しが犯罪を犯してしまった、など理由は様々だろう。
推しのライブに行って汗にまみれながら必死に応援したこと、推しと心臓が飛び出そうなほど緊張しながらお話ししたこと、推しと一緒に夢に向かって毎日努力し続けたこと。
そんな楽しい思い出に後ろ髪を引かれながらも、そんな楽しかった頃にはもう2度と戻れないことを認め、前に進むために推しを卒業するということだ。
そんな強い意志があることだ。
すなわち、決別とは、単に別れるという程度のものではなく、前向きであり、積極的であり、自己肯定的な決意による行動である。
この物語で、みや、さつき、ゆい、りこは、どれほどの覚悟をもって決別することにしたのだろうか。
みや、ゆいは、それぞれ父親、母親との決別を表明している。
今から家出をする、というわけではないが。
現実を受け止めて前に進んでいこう、という強い意志があったのだと思う。
父親、母親の不倫によって、家庭は崩壊した。
楽しかった家族関係はもう2度と戻ってこない、という現実を受け止めたのだと思う。
たとえ父親、母親が不倫をしても。
たとえ毎日父親と母親が喧嘩をしていて家にいるだけで最悪な気分になっても。
たとえ優しかった父親、母親の顔がもう2度と見れなくても。
自分の人生は自分で決めていく。
親のせいでなんてもう言わない。
そのために、彼らとの思い出の物をフリマで売ることで、彼らとの心理的な関係を完全に断つ。
そういう決意があったのだと思う。
さつきは、彼氏との決別を表明している。
さつきは先週、彼氏と別れたという。
彼氏が二股をしていることを知ったからだ。
でも、もしかしたら、彼氏が心を入れ直してくれるかもしれない。
もしかしたら、自分が彼氏を構ってあげられなかったせいかもしれない。
もしかしたら、お互いに本音を話し合ったらよりが戻るかもしれない。
もしかしたら、、、。
ひとりでいると色々な妄想が暴走してしまう。
前に進むためには、彼氏からもらった思い出のパーカーを売ってしまうことだ。
彼氏との思い出もすべて捨てて、関係を完全に終わらせる。
そういう強い決意があったのだろう。
りこは、序盤では、姉との思い出のゲームソフトを売ることを悩んでいる。
しかし、終盤で、姉の浮気現場を目撃してしまい、売ることを決めた。
つまり、姉と決別することを表明した。
りこにとって、そのゲームソフトたちは、姉と一緒に遊んだ楽しい思い出が詰まっていたのだろう。
りこは、姉と同じ進路を選ぶくらいいつも姉にべったりだった。
だが、成長するにつれて、一緒に遊ぶ時間が少なくなり、一緒に過ごす時間が少なくなり、心の距離も次第に離れていった。
姉がいないと何も決められない、あの頃の優しくておもしろいお姉ちゃんに戻ってほしい。
しかし、現実はどんどん真逆の方向へと進んでいく。
りこは、心の隅で、姉なしじゃなにもできない自分から卒業したい、卒業しなきゃいけないと思っていたのだろう。
姉の浮気現場を目撃したのは、踏み出せずにいるりこの気持ちのトリガーとなった。
りこは、姉と決別することを決意する。
そうして、4人の少女は、大切な人との決別をして、また一歩、成長していくのだろう。